イーロン・マスクが炭素技術に1億ドルの資金提供を約束
03/27 bility newsletter
イーロン・マスクが炭素技術に1億ドルの資金提供を約束。
2021年1月21日、電気自動車企業テスラのCEOでもあるイーロン・マスク氏のツイートが世界中の注目を集めた。
“最高の二酸化炭素回収技術に1億ドル(約104億円)の賞金を提供する”
その2週間前は4千万人以上いるフォロワーに「今持っているお金を何に使えばいいか」とアイディアを募集していたが、果たして二酸化炭素回収技術 –carbon capture technology– はその中で上がったアイディア1つであったのだろうか。世界で1番の金持ちが決断することのインパクトは大きい。他のビジネスリーダーもついて行くことになるのか、注目したい。
また、バイデン政権の『7つの優先事項(The Biden-Harris Administration Immediate Priorities)』においても、『climate』の項目があるように、気候変動への迅速な対応を宣言している。トランプ政権からガラッと方向性が変わったことに安心している人は多いが、少しの改善に留まってしまう可能性もある。これからの断続的な監視が最も重要である。
そして最近、企業でも大きな動きがあった。Microsoft、Amazon、Stripe、Shopifyが、カーボンネガティブな企業やプロジェクトに累積で30億ドル以上の投資を約束しているようだ。このように、投資においても、政治においても、気候が重要なセクターであることは、もはや疑う余地もない。
二酸化炭素回収技術は、もう一つのステークホルダーである消費者、すなわち、私たちのような一般の人々にはついて行きにくい、かなり科学的でfuturistic(未来的)な分野である。bility編集部も、常に学びながら配信する必要がある新しいエリアだ。Vol.0というこちらの初めのご挨拶的なニュースレターでは、二酸化炭素技術を活用したプロダクトの中でも、身近な"飲料"についての事例を紹介していきたい。宅飲みしながらカーボンキャプチャーだなんて、なんと”意識が高い”おうち時間…
Visionary Cases
余分なCO2は"摂取"してしまえばいい。
~炭素回収・活用方法としての炭酸飲料~
醸造業のビールの発酵中に出るCO2を炭酸化に再利用
テキサス州オースティンのEarthly Labs社は、醸造メーカーが発酵などの際に排出するCO2を捕捉し、炭酸化に再利用するCiCiという技術を開発した。この技術によりクラフトビールメーカーは、毎年醸造過程で発生する1,500本分以上のCO2を大気中に放出しないように回収することが可能だ。その中でもGrey Sail社は、ロードアイランド州では初、ニューイングランドでは2番目に、地ビール用に開発されたカーボンキャプチャーテクノロジーを導入したクラフトビールメーカーである。
今世界にある炭酸飲料を全てこのようなキャプチャーテクノロジーを活用して作るとなると、相当なインパクトになる。もちろん、そのテクノロジーの開発コストは配慮しなければならないが、そこを軽減するためにも、多数の企業が力を合わせるべき時なのではないか。気候変動は待てない。テクノロジーの普及を本当に求めるようなビジネスなのであれば、コラボレーションやイノベーションは欠かせない。
コカ・コーラ社が炭酸水の気泡にCO2を活用
スイスのコカ・コーラHBC社が環境スタートアップClimeworksと協働で、回収した二酸化炭素(CO2)を炭酸水「VALSER」に活用している。Climeworksの技術により回収されたCO2を、炭酸水の気泡に活用することで、全体でのCO2排出量を抑える取り組みだ。また、副産物の熱エネルギーを利用し、再生可能エネルギーでも稼働できるようにするなど、化石燃料に頼らないプロセスの構築にも力を入れている。
以下がClimeworks社のカーボンキャプチャーテクノロジーの模式図である。空気から直接二酸化炭素を回収し、それを水と混ぜ、地中深くに押し込む。その後自然な鉱化現象により玄武岩と反応し、もう一度石になるらしい…ふむふむ。
ところで、読者の皆さんが聞きにくいと思いながらも、疑問に思っているあれはどうなのか?そう、炭酸飲料にはつきもののゲップである。一体どのくらい炭素が再度、大気中に逆戻りしてしまうのだろうか。
Climeworks の official websiteより
太陽光発電を利用したカーボンネガティブなウォッカ
ニューヨークのスタートアップAir Companyは、太陽光発電による再生可能エネルギーを活用した「エア・ウォッカ(Air Vodka)」を販売している。CO2を空中から抽出し、それを純粋なエタノールへと変えて、ウォッカにする。ウォッカのボトル1本を製造することで、8本の木が1日に吸収するのとほぼ同じ量の二酸化炭素を大気中から除去できるので、世界初のカーボン・ネガティブな蒸留酒といわれている。パリピが一晩で吸収する二酸化炭素の量をショット単位で計算できる時代になったのか、と思うと感慨深く感じるのは自分だけだろうか。
Who's Next ?
「21世紀生まれで初めて全米1位を獲得したアーティスト」ビリー・アイリッシュを知っているだろうか。昨年、彼女がリリースした楽曲『all the good girls go to hell』は地球温暖化について書かれた曲である。
“今この瞬間も、世界にいる何百万人もの人たちが、各国の指導者たちに向けて地球温暖化への迅速な対応を求めている。私たちの地球は、いまだかつてない速度で温暖化している。極地の氷は溶け、海面は上昇し、野生生物たちは毒され、森林は燃えている。”
(Billie Eilishのインスタグラムストーリーより)
Billie Eilish の Instagram story より
昨年のワールドツアー「WHERE DO WE GO?」では、会場内でのプラスティックストローの使用を禁止し、あちこちにリサイクル用ゴミ箱を設置する、ファンにはマイボトルを持って来てもらうなど、ファンへ環境問題のアクションを促している。若い世代に大きな影響力を持つ彼女の今後の動きに注目していきたい。
"All Good Girls Go To Hell" のMVより
In the News
✔️ダメージを受けたアマゾンの森林が気候変動を悪化させていることが調査で判明
"今まで地球温暖化進行の砦として認識されていたアマゾンの熱帯雨林だが、火災や森林伐採、ダムの建設や畜産業など様々な要因により被害を受け、一部、回収量を上回るくらい二酸化炭素の排出が多いことがわかった。"
NATIONAL GEOGRAPHIC (March 12, 2021)
✔️東芝が二酸化炭素を高速処理する装置を開発:年間1トン変換可能
"東芝が電気を用いて二酸化炭素を一酸化炭素に変換する技術を開発しました。処理速度は世界で最も速いとしていて、開発した装置で年間1トンの二酸化炭素を処理できるようだ。"
NHK WEB NEWS (March 22, 2021)
✔️中国 ゲーム開発スタジオが国連環境計画の活動に参画、炭素中立に向かう
"テンセントゲームズに所属する天美工作室は向こう12カ月以内にゲームの中と外の両方で教育的体験を生み出すことにより、1億1千万人以上のゲームプレーヤーの気候変動対策を後押しすると約束している。"
AFP BB News (March 23, 2021)
✔️ドイツ 政府が電気自動車の充電インフラを加速:7100億円拠出
"ドイツ政府は、電気自動車の充電インフラに55億ユーロ(約7100億円)を拠出する方針だ。基幹産業に対する明確な支援の表れとなる。"
Bloomberg (March 24, 2021)
✔️カナダ 最高裁判所は炭素税が合憲だと判断し、政府の法整備を通した環境対策に一歩前進
"「気候変動はホンモノだ。人間が発生させた温室効果ガスからおこる気候変動は、人間の未来に大きな警告を鳴らしている」との裁判官の発言から炭素税は違憲ではないとの判断が下された。長年カナダで続いてきた炭素税の是非についての議論は終決し、炭素税をアジェンダに掲げる与党に追い風が吹くのだろうか。"
The New York Times (March 25, 2021)
Editor's note
先日、日本では二酸化炭素からコンクリートを製造する技術についてニュースで取り上げられた。このようにCO2を地中に貯蔵するだけでなく、プロダクトに応用していく技術(=カーボンキャプチャーテクノロジー)の重要性は日本でも少しづつ広まっている。パッケージ以外の部分へのアプローチや、サプライチェーンでのCO2排出量の配慮など、踏み込んだ事例も数多く存在している。人々にとって身近な"飲料"が変わることで、消費者の意識を変えるきっかけになる、そんな炭素技術の時代への可能性を感じた。
また、2月8日に日本は炭素技術の時代に向けて大きな一歩を踏み出した。
火力発電の燃料として石炭にアンモニアを混ぜる「混焼」の技術を開発し、2030年に年間300万トンの利用を目指す計画を経済産業省が発表した。脱炭素化のための2兆円の基金を活用し、実用化加速に向けて技術開発を支援する方針だ。
このように、脱炭素の取り組みは日本でも間違いなく加速している。もう、悲観的に地球の存続を嘆く時代ではないのかもしれない。技術から、ビジネスから、気候変動に対する小さなアクションの種を生み出す。そんな時代の空気の変化に今後も期待したい。
(Fujiwara)
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