🐚NYの島をまるっと気候変動ラボへ
07/21 bility newsletter
bilityは、世界中のクライメイト・テックを中心とした事例やニュースを日本語でお届けするニュースレターです。気候変動にアイデアやデザイン、意志の力で立ち向かうかっこいい事例たちをお届けします。
🌎今日のニュースレターは…?
ニューヨークの島をまるごと気候変動ラボに!?(4min)
ポスト気候変動を見据えた自給自足バイオキャビン(3min)
Editor's Note
おはようございます。
都内では梅雨明けとなり、夏本番。帰り道にアイスを買う日が増えました。しかし、九州や四国では深刻な大雨のニュースが目立ちます…。実は世界でもインドやドイツなど、大雨による大規模な被害が報道されています。
記録的な大雨の原因について、地球温暖化の影響を指摘する専門家も多く、オーストラリアのシンクタンクIEPは「自然災害により故郷を追われる「気候難民」 2050年までに12億人が避難の可能性も」と指摘しています。
自分たちが将来、気候難民になったら…そんな未来のためにも、今回は気候変動の影響に対応する、住まいと一体化したクライメイトアクションを紹介します。
🌴ニューヨークの島をまるごと気候変動ラボに!?(4min)
■ Basically...
ニューヨーク市長がガバナーズ島を気候変動のためのラボ施設に作り変えることを発表。現在、気候変動ソリューションを見つけるための研究・学術施設を誘致するためのグローバルコンペを開催している。
■ In detail
ガバナーズ島はアメリカ東海岸・マンハッタンに位置する島で、ニューヨークを一望できる観光地として人気を集めている。昨年9月にデブラシオ市長がガバナー島をNYのみならず世界を気候変動の影響から守るためのハブとして再構築することを発表し、約165億円(約15000万ドル)が交通や建築、インフラ整備へ投資されるという。この再開発によって約7000もの仕事が創出される見込みだ。
気候変動研究を深めると同時に、政策や提言がどのようにテスト事業に組み込めるのかを探るのが大きな目的だ。このハブからスタートするテスト事業は、ハリケーンや洪水、ヒートアイランド現象などの異常気象に悩まされているNY周辺の低所得世帯に対して直接的な影響を持つ。
NY副市長によると、これまでの災害対策・復旧モデルはNYのような複雑性の高い地域に対応することは難しかったという。特にハリケーン・サンディでは、NY特有の都市の密集性と住宅を所有している人が少ないことが課題として露呈した。
■ Our thought
ガバナーズ島は気候変動に「人間的要素」を織り込むための研究を行うリビングラボとして位置づけられる。リビングラボとは、「オープンイノベーションを生活の場で実践するための場所」である。市民(=利用者)と企業やアカデミアなど(=提供者)が共創プロセスから実装と評価を重ねてそこからプロダクトやサービスを生み出す一連の流れを指す。他の類似施設と最も大きく異なるのは、試作したものを生活の中で実際に使用してフィードバックと改善を重ねていく、という点である。気候変動ソリューションも毎日の生活で私たち市民に広く活用されて初めて大きなインパクトを創出するため、このように気候変動リビングラボ創出に行政が大々的に参画することは、大変重要な成果だろう。
記事の中で政策研究センターのディレクターであるオッペンハイマー氏は、「すでに毎年約100万人の訪問者を魅了しているガバナーズ島は、住民を直接会話に引き込み、気候研究の”人間的要素”を育むだろう。理論における研究と対照的に、実際に都市部に住み込み、解決策の開発過程に参画できる。」と断言している。また、ここで吟味されたソリューションはNYのみならず、世界中の都市に横展開できるはず。
日本でも横浜や柏など、いくつかのリビングラボが誕生しているが、未だ気候変動に特化したラボは見られない。このNY気候変動ラボの成果を楽しみに待ちつつ、どのように日本で横展開できるのか考えていきたい。
🍹ポスト気候変動を見据えた自給自足バイオキャビン (3min)
■ Basically…
建築スタジオW-LABがポスト気候変動の砂漠地で自給自足生活ができるバイオキャビンを提案した。環境負荷が低く、エネルギー消費を最小限に抑える設計となっている。
■ In detail
2019年5月、世界各国の有名建築事務所17社が、気候、正義、生物多様性の緊急事態を宣言する「Construction Declares」を立ち上げたことをきっかけに、Declareムーブメントは世界各地の建築業界で広がった。これらの影響で、建築家やデザイナーは地球に与える影響を今まで以上に重要視さぜるを得なくなった。
建築業界でも気候変動への意識が高まる中、今回紹介するW-LABは住空間におけるCO2排出量を削減するための機能的な建築製品を作る若手の建築スタジオだ。そのW-LABが提案したのが、砂漠地で自給自足生活ができるバイオキャビン。中央の水場を中心に構成され、周辺には砂漠の環境で生き延びられる植物が植えられている。
どのように生活するのか、中身を見てみよう。まず電力は、ソーラーパネルや風力発電でエネルギーを創出。必要な商品はドローンで配達され、コンポストや垂直農業を活用し、狭くて乾燥した場所でも食材を賄う構造だ。建築素材も砂漠環境で入手しやすい素材を採用している。
これらのバイオキャビンはまだ実現には至っていない。最初に紹介した事例のように、実際の砂漠地でモデル事例を作っていく必要がある。
■ Our thoughts
これまでbilityで紹介してきたプロダクトやサービスは、気候変動解決に向けて設計された事例が多かった。そのため、バイオキャビンは今までの事例とは少し逸れる部分もあるかもしれない。しかし、地球温暖化が深刻化してしまった後の世界を悲観的に予測し、人間と地球が共存する”プランB”を提案している、他にない視点を紹介したいと考え今回ピックアップした。気候変動のリスクに対して目先の対処だけではなく、気候変動後の世界にどう対応するかも考える必要があるだろう。
📚Editor’s Note
今回のニュースレターを執筆する過程で宮崎駿監督作品『もののけ姫』をふと思い出しました。映画を観たことがある方はお分かりかもしれませんが、あの作品は(暴力的に二項対立に落とし込むと)自然とそれを搾取する人間の対立を描いていました。映画評論家の小野寺系氏はこのように述べています。
「人間は、自分たちが生き延び、社会や科学技術を発展させていくことで、多くの生命や環境を犠牲にしてきた。われわれ観客も、たとえ自分自身が積極的に手を下していなくとも、文化的な生活をすることで、知らず知らずそのシステムに加担しているはずだ。」
今までbilityでは、数々のクリーンテックや注目技術を取り上げてきました。これらのプロダクトは大抵の場合「より環境にやさしい選択肢」として、さらなる活用が推進されます。しかし、盲目的なテクノロジーの活用はさらなる自然破壊を起こしかねません。例えば、近年斜面に設置された太陽光発電施設での土砂災害が多発しています。これは、「土砂災害危険箇所」と警告されている地域に発電場を建設したことが災害の要因の一つとされています。いくら技術やプロダクトが革新的でも、その適用には負の側面も必ず存在します。技術適用後の影響注意深く目を向けると、さらなる自然の搾取や破壊、生態系と人間の分断をより深くすることは避けられるのではないかと思います。やっぱりサンとアシタカにはこれから仲睦まじくいてほしいものですね。
😉 編集部注目のホープ
「環境分野のノーベル賞」 日本のNGOの平田仁子さんが選ばれる
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